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ドライバーに情報と娯楽を提供する未来システム「IVI(in-vehicle infotainment)」とは?

自動車の座席を適切に自動調整し、音楽やテレビ・ラジオなどのエンターテインメントシステムもドライバーの好みに合わせて自動設定してくれる。走行中も渋滞情報や最適ルートをナビゲートし、ガソリンや電池の残量なども知らせてくれる。ドライバーの安全を守りながら、ドライバーに快適な運転を支援する車載インフォテインメント機能「IVI(In-vehicle Infotainment)」について解説します。

IVIとは?

IVIとは、In-vehicle Infotainmentの略称であり、「車載」を意味するin-vehicleと「インフォメーション(情報)」と「エンターテイメント(娯楽)」が融合したInfotainmentからなる造語です。日本語では、車載インフォテインメント機能と表されます。

IVIはドライバーや同乗者などの安全を守りながら、車載ネットワークを使っていつでも情報を受け取ったり、娯楽を車内で楽しんだりすることができるシステムです。搭載されたAIによって、会話をするように行き先の指定や最適な道順の相談、渋滞予測などができるようになることも期待されています。

さらに今後は処理性能の向上やネットワークの高速化により、車内でゲームや映画、ライブなどを楽しんだり、スマートフォンとの連携により、メールのやり取りやスケジュール管理なども、運転中にできるようになっていきます。

自家用車に限らず、商用車やバスなどの公共の乗り物にIVIを導入することで、あらゆるユースケースでの応用が期待されています。IVIは、乗り物業界の産業発展に貢献するシステムであると言えるでしょう。

自動運転におけるIVIの役割とは

ドライバーの安全運転をアシストするADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムにおいて、IVIはどのような役割を担うのでしょうか。欧州では、交通事故防止のために、居眠り運転防止機能等が段階的に義務付けられ、2026年以降発売の新車には 全車への適用が必要になります。IVIの処理性能が向上することにより、IVIにそれらの機能を統合することも検討されています。

自動運転技術の進化により、ドライバーは手放し(ハンズフリー)運転することが可能になってきました。一方で、安全で安心な運転状況であればあるほど、眠気などの誘惑が発生するリスクもあります。ECUの統合により、そのような場面で対処することもIVIの中で行えるようになります。

仕組みとしては、車載カメラやセンサーが常にドライバーの状況を察知し、警告を発することで事故を回避させます。ドライバーの眠気や居眠りは、通常と違う目線の動作やステアリングやブレーキング操作の遅れをIVIが検知して警告します。
自動運転においては、ドライバーが注意散漫にならないようにする監視機能があります。また、自動運転中に同乗者が映画を観ている際は、ドライバーには観えないようにするシステムも考えられています。

他にも車載カメラを活用して、ドライバーや同乗者の体温や動作に異常がないかを確認するヘルス管理機能や、車内の忘れ物を知らせる機能、駐車時の盗難を防ぐ検知など、あらゆるユースケースが期待されています。

インフォメーション機能としては、例えばガソリンを給油したい場合に、近くのガソリンスタンドへの最適経路をアルゴリズムが選定して誘導したり、給油後の決済も自動的に行われたりするシステムなど、運転中に楽しめるエンターテイメントにとどまらず、便利で安全・安心な機能を提供することがIVIの役割とも言えます。

IVIの仕組みとテクノロジー

自動車の各機能を制御するECU(Electronic Control Unit)に搭載される半導体は、より小型で高度なものに進化しています。近年は一つのチップでありながら、多機能な処理をするSoC(System on Chip)が主流となっています。高速処理を行うSoCは、IVIのような大容量の情報を処理することを可能とします。

ECUが小型で高機能となったことで、自動車の各機能で分かれていたECUを統合させることが可能になり、電気配線の本数を減らすことに繋がっています。車両の重量軽減も実現し、生産性も向上することができます。さらに、低電力化による自動車の燃費にも貢献しています。

処理速度の向上により、運転支援機能もドライバーに対してより直感的な操作性が求められています。現状の運転席のオーディオやウィンカー、ワイパーなどの操作は、ハンドルに取り付けられた機械式ボタンやレバーで操作されていますが、IVIの進化でフロントのディスプレイはタッチパネル式になってきました。

将来的には、ドライバーが自動車周辺の外部状況からなるべく目を逸らさない仕組みにするため、ジェスチャーや目の動きに応じた操作システムに発展していくことも考えられています。

こうした機械式のスイッチを減らすためには、ソフトウェアの技術が重要となってきます。まさに次世代の自動車は「走るスマートフォン」とも言われており、IVIの導入により、ますますソフトウェア開発が重要となります。コネクティッドカーは常にクラウドと繋がっており、システムやアプリケーションのアップデートも必要とされます。

また、自動車の各機能を常に監視して故障や故障予測をドライバーに知らせるシステムも重要です。

自動運転におけるIVIの進化と、AIとの相性は必需とされています。ドライバーがいま何を望んでいるのか、AIとドライバーの会話機能が搭載されるかもしれません。ヘルス管理や精神状態を予測して、ドライバーをリラックスさせる音楽を提供するなど、AIしかできない安全・安心運転のサポートが求められていくでしょう。

未来のIVIはどんなカタチになるのか

未来の自動車はIVIの進化により、心地よい居住空間だけにとどまらず、乗り物全体がコンセプトのあるコックピットになり、あらゆるエンターテイメントを満喫できる環境を創り出します。

IVIの進化形としては、統合化があります。前述のECUの統合化により、本来機能毎に分かれていたECUを一つのECUで操作できるようになり、接続できるディスプレイやカメラの数が増え、よりタイムリーな制御、一体化したデザインでの表示が可能になります。
また、ディスプレイ自体の進化により、今までのカーナビにはなかった、路面状況や歩行者が飛び出す危険性の警告、事故確率の高い交差点の情報なども提供してくれるでしょう。音声も含めドライバーにはわかりやすく伝えてくれる無限の可能性があります。

また、フロントガラスやサイドガラスまでもがディスプレイとなり、自動車内全てが異空間となって、よりエンターテイメント性の高い映画やライブを楽しめる日も遠くありません。移動中に仕事に必要な情報を提供してくれるシステムが登場し、移動時間も有意義に過ごせるようになっていくでしょう。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2023年3月22日公開)