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「大きな歯車を回す」と決意して臨んだフランス赴任
──3社合同プロジェクトのプロマネとして大切にしていること

世界中に拠点を持つボッシュでは、世界各国への海外赴任の機会があります。現在フランス拠点でグローバルプロジェクトマネージャーとして活躍する西原広作は前職のアメリカ系外資の企業からボッシュに入社。海外赴任に至った経緯や世界中のメンバーが参加するプロジェクトに関わることのやりがいなどについて語ってもらいました。

ビークルモーション事業部(VM)
アクティブセーフティー部門(AS部門)
ソフトウェアグループ
グローバルプロジェクトマネージャー(Global Project Manager for ESP Software)

西原 広作

開発現場にいたほうがプロジェクトを進めやすいと、フランス赴任を決意

現在、担当しているプロジェクトと役割について教えてください

2018年からスタートした完成車メーカー3社共通ソフトウェアプロジェクトのマネジメントをしています。それまで個別に開発していた各社がアライアンスを組み、シナジーを出していこうというグローバルな合同プロジェクトです。

そこに私がソフトウェア全体を統括するマネージャーとしてアサインされました。ソフトウェア開発には、プロジェクトマネジメント、仕様解析、機能開発、ソフトウェアアーキテクチャ設計、ネットワークコミュニケーション、インテグレーション、テスティングなどがあり、私はプロジェクトマネジメントを担当しており、全体のプランニング、開発戦略、方向性を決めています。

2019年から1年間ほどフランスに赴任していたのですが、2020年に一時帰国している間にコロナ禍となり、渡航できなくなってしまったため、横浜オフィスからリモートで業務を行っていました。2022年1月から再びフランスに赴任し、現在もグローバルプロジェクトマネージャー(Global Project Manager for ESP Software)を務めています。

なぜ、フランスに赴任することになったのでしょうか。その経緯をお聞かせください

2018年に、プロジェクトに参加した時は日本の横浜オフィスで勤務していました。しかし、今回のプロジェクトにおいては、効率の良い情報伝達や交渉の点でもフランスにいたほうがよいだろうと考えていました。完成車メーカーの担当者と時差もなく直接話ができる拠点にいたほうがスムーズにプロジェクトが進行できると当時の上司も賛成してくれ、フランスにロールを作ってもらうことができ、赴任しました。

人は顔をつきあわせて状況を説明し、真摯に依頼すれば「じゃあ、なんとかしてみましょう」となりやすいもの。現地に行って、コミュニケーションしながら、一緒に仕事をする人たちの気持ちを動かしていくこともプロジェクトマネージャーの重要な仕事です。

海外赴任が決まった時はどんな気持ちでしたか

何よりも「3社をまとめ上げるぞ!この大きな歯車を動かすんだ」という決意が強かったですね。そのためにフランスに赴いたのですが、当時は仕事が忙しくて、飛行機に乗るまで海外に転勤するという実感はなかったです(笑)。

私は大学時代、5年半ほどヨーロッパに住んでいたので、海外生活に対するハードルはありませんでした。学生時代にはパリに旅行で訪れ、「美しい街だな。いつか住みたいな」と思っていたので、その夢が叶いました。

多角的な視点から必要なことを設計に落とし込む

合同プロジェクトではどんな課題に取り組んでいますか

通常の開発プロジェクトは車両ごとに組まれるのですが、合同プロジェクトでは3社全体の開発戦略や方向性を決めなくてはなりません。
ステークホルダーが増えたり、最新の技術を導入したりすることで、複雑性や難易度が通常の何倍にも跳ね上がるため、当初は、プロジェクトの成功について心配の声もありました。

大量の作業スケジュールがガントチャートに並んでいる中で、「どうすれば効率良くできるのか」、「ここで問題が起きたら、次に影響を受けるのはどこか」といったことを考えながら体制を整える。そうした全体的なプランニングを管理し、全てのプロジェクトを成功させることが、私のミッションです。

フランスと日本で仕事の進め方の違いを感じることはありますか

カルチャーの違いはもちろんありますが、ボッシュ社内では実はあまり感じません。もともとボッシュがダイバーシティな環境で仕事を進めているからです。

強いていえば、日本は時間や期日を守ることを重視する傾向にありますが、フランスは契約を重視するので、ドキュメント等をより大事にします。現地にいると、そういった違いを肌で感じることができます。これらの違いを学びながら、お互いの良いところをハイブリッドで進めていけるのは、ボッシュのいいところだと思います。

プロジェクトを成功させるために、人を大切にする

プロジェクトマネージャーとして重視していることは何ですか

人を大事にすることです。プロジェクトマネージャーとして必要なスキルはいろいろありますが、お客さまとエンジニアを大事にすることが最も重要だと思います。それぞれが求める必要なものを与えられるように、気を配っています。

例えば、プロジェクトでエンジニアが困っているのであれば、「何が必要か」を聞き出します。時間が足りないようであれば、お客さまのところへ行って「あと3日ください」とお願いする。仕様変更が必要なら、会議を設定して話を聞き、エンジニアが仕事を達成できるようにサポートしています。

熱意もとても大切です。「必ずプロジェクトを成功させる」ことを宣言し、「プロジェクトが成功するにはどうしたらいいか、皆が気持ちよく開発するにはどうしたらいいか」を常に考えていると、周りも影響されてきます。「西原さんのお願いなら断れません」と言われたこともありましたが、とてもうれしかったですね。

最初は孤独に感じることもあった海外駐在ですが、人とプロジェクトのために奔走し、感謝されたり難題をクリアしたりと充実感に満たされることが多くなりました。人の成功や幸せを願うことは、自分のためにもなります。

開発者からプロジェクトマネージャーに仕事が変わったきっかけは何でしょう

ボッシュに入社して、エンジニアとして現場で開発していた頃から、お客さまと密にコミュニケーションを取り、何かあれば率先して対応していました。「必ず結果を出すぞ。期待に応えるぞ」という行動力がプロジェクトマネージャーに向いていると判断されたのかもしれません。

ただ、今になってプロジェクトマネージャーの視点で振り返ると、とんでもないエンジニアだったなと思うこともあります。勝手に日程を決めてくるなど、行き過ぎた行動もあったと思います。そんな私の行動を先輩も上司もとがめることはありませんでした。見守ってくれて応援してくれたから成長できて、今の私がいるととても感謝しています。

「行き過ぎ」と思いながらも進んだのはなぜですか

すごく難しいところですが、とにかく結果を出したかったからですね。
お客さまの期待に応えるには、時に行き過ぎた行動も必要と感じていました。
自分に与えられた役割を超えることは、時にエンジニアとして、またプロジェクトを成功させるには重要だと感じていたのだと思います。
また、エンジニアとして現状の仕様に潜む弊害や問題点に気づいて、行動しようと心がけていました。

ソフトウェアとしてはOKでも、不測の状況に対応できるか、ドライバーにとって心地よいか、常にあらゆる観点から考えて設計に落とし込む必要があります。

そのためには多方面からのレビューを聞き、批判も受け入れながら、限られた時間の中で、総合的にベストな選択を行う。常に真摯に向き合い、結果を出していく。そんな取り組みをしていました。

「自動車での死亡事故が起きない時代」を目指したい

未来の自動運転の時代に向けて目指したいことは?

未来の自動運転システムの開発に向けて、ソフトウェアエンジニアに求められることはますます増えていきます。一方、どの方向に進むかは各完成車メーカーで分かれていくでしょう。新しい技術をそれぞれのコンセプトに合わせながら、選択していく必要があります。

また、メーカーと連携しながら、開発スピードを高めていくことも重要です。スマートフォンアプリのように、頻繁に機能がアップデートされていくイメージです。そのためにはアジャイル開発だけでなく、DevOpsと呼ばれる開発手法が鍵になります。現在も開発サイクルにフィードバックを採り入れながら、常に更新していくスタイルに変わりつつあります。

自動運転システムはネットワークに接続しますから、サイバー攻撃の脅威にも直面します。自動車の制御システムがハッキングされれば、人命に関わるリスクがあります。そのため、自動車の安全性はなんとしてでも担保しなくてはなりません。そこは法規も含め、最新技術で対応していかなくてはなりません。

最終的には、自動車の死亡事故をゼロにしたい。「もう自動車で事故というものは起きない」、そんな時代が来てほしいと心から願っています。ブレーキ制御はそこに大きく貢献できるので、「人の命を救う」開発をこれからも進めていきたいです。

医師は病気やケガをした人を救いますが、私たちは事故を起こさせない、たとえ事故が起きても大きなケガにならないように働いています。ABS(アンチロックブレーキシステム)やESP(エレクトロニックスタビリティプログラム、横滑り防止装置)などのブレーキシステムは交通事故の死者数を減らすことに大きく貢献しています。人を守るエンジニアリングというのは、エンジニアとしてとてもやりがいのある仕事です。

繰り返しになりますが、ボッシュでの仕事の魅力は、技術的な側面だけではなく、人の命を守るという意味で社会的な意義があることだと感じています。例えば、ESPは先進国では、当たり前のように実装されていますが、まだ浸透していない国もあります。プロジェクト単位でもたらされるメリットが部署、会社、地域へと広がるように、世界中の自動車に乗る人の安全を守るために、日々精進していきたいと思います。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2022年11月17日公開)