#Tech Note

自動運転支援システム開発を行う人材を倍増し、
日本からグローバルに発信するプラットフォームづくりへ

ボッシュの3つのビジネスユニットが集約してできたクロスドメイン コンピューティング ソリューション 事業部(XC事業部)でドライバーエクスペリエンス部門(DX部門)のゼネラル・マネージャーを務める喜家村裕宣に、新組織設立の背景や役割、求めるソフトウェアエンジニア人材、今後目指す姿について語ってもらいました。

クロスドメイン コンピューティング ソリューション 事業部(XC事業部)
ドライバーエクスペリエンス部門(DX部門)
システム・ソフトウェア開発統括 テクノロジー・サービス開発部
ゼネラル・マネージャー

喜家村 裕宣

クロスドメイン コンピューティングソリューション事業部の役割と課題

クロスドメイン コンピューティング ソリューション事業部(以下、XC事業部)はどのような背景から誕生したのか。そのミッションと課題についてお聞かせください

XC事業部は、3つのビジネスユニットが集約してできた部門です。
自動運転システムのドライバーエクスペリエンスと自動車内のシステム連携を行うアドバンスネットワーク、モニターやスピードメーターなどの統合を手掛けるコックピットテクノロジーなど、ソフトウェアとエレクトロニクスを集約する新事業部を2021年1月に設立しました。

より快適な運転支援や自動運転に向け、自動車のシステムは複雑化しています。搭載したい機能が増大し、システムを統合しなければ車内に十分なスペースが取れなくなっています。車内システムの最適化を行う専門組織が必要になり、XC事業部が生まれました。

ただ、3つのビジネスにはそれぞれの開発プロセスや組織構成、ドイツと日本との役割分担があり、カルチャーも異なります。

私は、2021年4月にXC事業部のドライバーエクスペリエンス(以下、DX)部門に異動して今年2022年に部長に就任。求められる技術や役割が違う中、視点をどう合わせていくかを新たなチャレンジとして取り組んでいます。

競合他社と比較した、XC事業部の強みとは何でしょう

統合したシステムとして提供できる点だと思います。求められるシステムが肥大化する今、複数のカメラやレーダーを搭載し、外界の認識精度を上げるニーズも高まっています。コンポーネント単位ではなく、統合された状態でシステムを提供できる点はお客さまにも期待いただいています。

日本のOEM(完成車メーカー)において、自社OSの開発は大きな課題となっています。ボッシュではお客さまが自社OSを活用する上でのサポートを進め、それぞれの開発環境でのデータの使い方、必要なメンテナンスに応じたソリューションを提供しています。

私たちは開発環境の自動化のほか、AIを取り入れたシミュレーション技術など外部技術を積極的に取り入れており、ドイツにはAI専門センターもあります。

開発からSOP(作業手順を記した指示書)、車が市場に出たあとのメンテナンスまで一貫してつなげられる仕組みを作って動き始めています。自動車業界において先進的な取り組みにより、お客さまのご要望に添ったアドバイスができるのです。

具体的にどのような技術があるのでしょう

例えばメンテナンスのフェーズであれば、走行中と同じ状況をシミュレーション環境で再構築し、パフォーマンスの改善点を見つけることができます。ソフトを更新後、再びシミュレーション上で試し、100%問題がないと確証できれば、実際の自動車に搭載していきます。

ドイツではシミュレーション技術を持った企業のM&Aを積極的に実施しており、今後は、シミュレーションで検証されたソフトをWi-Fi経由でより高速かつ快適に自動で更新できるようになるでしょう。自動車のデジタルツインができるイメージです。

日本からグローバルに発信できるプラットフォーム拡大へ

ドイツをはじめ、グローバルから見た日本市場にはどんな価値があるのでしょうか

世界の市場に出ている自動車の3台に1台は日本製ですから、日本のお客さまは決して軽視できません。特に日本のOEMの高い技術力には、グローバルでも高い関心を持たれています。だからこそ、日本の開発チームをもっと強くしていきたいと考えています。

日本サイドで技術的な議論を進め開発を主導し、お客さまの課題解決につなげていく。入社以来、実装ベースで開発プロジェクトを推進してきましたが、現部署でも技術力を強化していきたい。カスタマーインターフェースに留まるのではなく、プラットフォーム開発組織としての存在感を示していきたいですね。

国内開発力の強化に向けて、具体的にどのように取り組んでいきますか

先進的な開発環境技術として、ドイツから日本に導入されているものはまだ多くはありません。ソフトウェアエンジニアにとって働きやすい快適な環境づくりに向け、現在はドイツからエキスパートを呼び寄せ、長期滞在する中で技術移管を進めています。

さらに今後1~2年スパンで、プラットフォーム開発人材を2倍以上に増やし、DX部門を国内の「プラットフォーム開発センター」と呼べる規模にしていきたい。日本からグローバルに発信できる組織を作りたいと考えています。

プラットフォーム開発とは具体的にどういったものを指しますか

自動運転支援システムでは、あらゆる領域でプラットフォーム開発を進めています。
例えば、2021年から手掛けているのが「コネクテッド・マップサービス」です。自動車に搭載されたセンサーからデータをクラウドに集め、そのデータをもとに軌道のコントロール用のマップを生成し配布する技術を指します。

日本の道路は、高速道路にしてもカーブが多く交通渋滞も頻発する、世界的にはユニークな環境です。日本の複雑な道路は、世界のOEMのベンチマーキングロードとして、解析精度の評価基準になっています。そのため、日本で開発ノウハウを持つことは効率的な解析につながるとして、ドイツからの期待感も大きいのです。

カメラ・ビデオ認識の精度向上についてもニーズが高まっています。現在、プラットフォーム開発が手掛ける分野として、新しい組織の立ち上げフェーズにあり、DX部門でもカメラやレーダーデータの統合を担当しています。他部門を横断した連携で、プラットフォーム開発への貢献につなげていきたいです。

今、ボッシュのXC事業部でキャリア入社して働く魅力とやりがいは?

今だからこそ、XC事業部にジョインする良さ、魅力はどこにあると考えますか

ボッシュの企業規模において、「組織を2倍にしたい」という急拡大フェーズにジョインできるタイミングは非常に稀だと思います。

プラットフォーム開発の拠点を作っていく中で、ドイツとの交流も盛んにあり、半年以上のドイツ滞在で「修行する機会」もあるでしょう。

エンジニアレベルでも、お客さまにプラットフォーム開発の中身を語れるように、ドイツとやり取りする機会は多く設けたいと考えています。海外での挑戦にモチベーションを感じる方、新しい環境に飛び込んで自走できるマインドを持つ方には、とても刺激的な環境だと思います。

喜家村さんもボッシュにはキャリア採用で入社したと伺いましたが、エンジニアとしてボッシュだからこそ得られた経験はありますか?

ボッシュには、どのポジションにおいても、意見を言い合えるフラットでオープンなカルチャーがあります。特にドイツでは、激論になることもありますが、会議が終われば和気あいあいと仲の良さが戻り、気まずくなることもない。切り替えがはっきりしていて、働きやすいです。

エンジニアとしては、お客さまと対等に意見を言い合える、技術的な背景があるところが良さでしょう。ただ要求に応じて動くのではなく、グローバルで蓄積された技術やデータをもとに最適な提案をし、話を聞いて認めていただけるような関係を築ける。新たなビジネスにつなげられる面白さがあります。

実際に、キャリア入社時の部署であるビークルモーション事業部において、2018年から3年がかりで進めてきたエアバッグのプロジェクトでは、ついに2022年6月に量産まで進めることができました。エアバッグ領域で初めての取引となるお客さまと量産体制を築けたことは、今後のビジネス展開へ広がっていきます。開発から一貫して携わり、形となった達成感は大きいです。

それほど大きなプロジェクトを担当するにあたり、必要なスキルはどのように学ばれたのですか

マネジメントの観点では、プロジェクトマネージャー(以下、プロマネ)としての経験や知識をボッシュ内外で得られたこと自体に価値があります。

例えばボッシュでは、プロマネの教育システムがきちんと用意されており、社内のプロマネ認定カリキュラムの中で、プロジェクトマネジメントに関する国際資格「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル」も受ける必要があります。

社内カリキュラムは業界的にも高く評価されており、プロマネとは何たるかを体系的に学ぶ機会は貴重だったと感じています。

実際のマネジメント業務では、複数のタスクフォースに追われて目が行き届かず、資格試験で学んだ通りにいかないことも多々あります。それでも、チームが同じ方針に向けて強くなっていく様子を体感できたのは、非常にうれしいことでしたね。

自動車に強いこだわりがなく入ったものの、気づけば社歴は8年以上。これだけ長く働けているのは、エンジニア、チームリーダー、プロジェクトマネージャー、開発設計、ゼネラル・マネージャーと、1~2年ごとに、次なるポジションを任され、キャリアのステップを踏ませてもらっているからです。新たなチャレンジが好きな私にとって、非常に恵まれた環境でした。

日本のエンジニアがグローバルに活躍できる環境をつくる

これからのXC事業部の展望をどう描いていますか

XC事業部としては、既存ビジネスを継続しながら、複数のカメラやレーダー解析などのシステム統合ビジネスを量産体制へとつなげていきたいです。個人的な思いとしては、日本における「プラットフォーム開発センター」を作ることが大きな“野望”ですね。

センターというからには、今の2倍以上の100名体制の組織まで大きくしていく必要がありますし、人を増やす以上は、日本の開発責任範囲を広げていかなくてはいけない。それが、今後数年かけて追いたい目標です。

マネジメントポジションに立つ今、私の役割はビジョンを作ること。日本でコア技術開発ができる環境をつくらなければ、日本のエンジニアがなかなか育っていきません。

「ボッシュではカスタマーインターフェースしかできない」「お客さまとのコミュニケーションはコスト交渉だけ」では、面白くないでしょう。技術的なコンピテンスがあり、プラットフォーム開発に携われる点は、これからも大切に整えていきたいと思っています。

ボッシュで働く仲間には、テクノロジーで世の中をより良くしたい、改善していきたいという思いがあります。自動車業界においては、コンポーネントの性能重視だったこれまでから、エンドユーザーのユーザーエクスペリエンス重視の傾向が強まっています。

車に乗る人をどうハッピーにするか、どう快適性を追求するか。車に乗ることで得られる体験に視線が向かい、新たなモチベーションとしているメンバーも多いでしょう。私自身も、最先端技術に触れながら、未来につながっていく開発を手掛けたい。自動運転はもちろん、ほかの領域にも興味を広げていきたいですね。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2022年9月26日公開)