#Tech Note

なぜ、いまソフトウェア人材の採用に注力しているのか
──ボッシュが今後の事業成長で目指すものとは

ビークルモーション事業部(VM事業部)はボッシュを支える屋台骨の一つ。特に自動車の安全・安心を担保するブレーキシステムの開発は重要で、近年はソフトウェア制御の役割がきわめて大きくなっています。ソフトウェア技術部を率いる徳増裕司に、ボッシュにおけるソフトウェア開発の重要性、これからのソフトウェアエンジニアに対する期待について語ってもらいました。

ビークルモーション事業部(VM事業部)
ブレーキシステム開発統括部 ソフトウェア技術部
ゼネラル・マネージャー

徳増 裕司

ボッシュ独自のプラットフォームを活かしてソフトウェア開発を拡大

ビークルモーション事業部(VM事業部)ブレーキシステム開発統括部におけるエンジニアの役割、ボッシュならではの技術、とりわけソフトウェア技術の重要性について聞かせてください

VM事業部の担当する製品としてはESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム、横滑り防止装置)、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム、急ブレーキ時などに車両の安全性を確保する技術)、iBooster(電動油圧ブレーキ)、エアバッグや車載センサーなどがあります。

ソフトウェア技術部では、ソフトウェア開発におけるプロジェクトマネジメント、仕様解析からの機能開発、ソフトウェアアーキテクチャ設計、さらにはネットワークコミュニケーション、インテグレーション、ソフトウェアテストなどを包括的に行っています。私の部署は主にブレーキシステムのソフトウェアを開発しています。

近年ではソフトウェア技術の重要性が高まっています。ハードウェアは自動車の安全性を担保するきわめて重要な要素ですが、技術の更新や改修にはスピード的に限りがあるので、ソフトウェアで行う流れは今後ますます強まっていくでしょう。

私たちの顧客からも、技術改良はハードウェアとしてではなく、顧客のセントラルユニットの中にソフトとして提供してほしいという将来の展望が出てきています。

VM事業部におけるソフトウェア開発の例をお話いただけますか。例えばESPはどのようなプロセスで開発されているのでしょうか

ボッシュでは、基本的にプラットフォームと呼ばれるソフトウェア基盤がドイツで開発されています。車載電子制御ユニット用の共通標準ソフトウェアアーキテクチャであるAUTOSARなどをベースに様々なソフトウェアのコンポーネンツが用意され、全ての顧客をサポートするコアな部分になっています。

我々はそれをベースに直接顧客である自動車メーカーの要求を聞き、仕様を確定します。実際のソフトウェア開発は、日本を中心に・ドイツ・インド・ベトナム・フランス・アメリカの各拠点で分担しながら進めるという開発スタイルになります。

顧客固有の要求を実現する手段は、ソフトなのかハードなのか、あるいはシステムとして実装する必要があるのか。まずはプロジェクトマネジメントチームが切り分けて、調整する作業が必要です。

仕様を決めたら、プラットフォームを活用してソフトウェアの設計に入り、コーディング、テストなどを進めます。ソフトウェアは様々なコンポーネントから成り立っているため、それらを統合し、車両での試験を含めたシステムテストを行った上で顧客にリリースします。

ドイツで開発されているプラットフォームがベースになっているわけですね

プラットフォームのメインストリームと呼ばれるソフトウェア製品に必要な構成要素が網羅されています。

例えば、ESPを動かすにあたって必要な構成要素、制御やネットワークの技術、個々のソフトウェアのアルゴリズムやインターフェイスなども用意されています。いわば、車をどう制御して動かすかというノウハウが集約されている。それを顧客固有の仕様を入れ込んでカスタマイズしていくわけです。

私たち日本のチームの顧客は日本の完成車メーカーです。顧客のニーズに合わせた開発は日本で行っていますから、細かいところまで十分に理解をして仕事を進めていく必要があります。そこで日本語で直接やりとりすることは非常に重要となります。単に顧客からの詳細な要求に応えるだけでなく、ボッシュ側から提案していくことも多々あります。

同様にフォルクスワーゲンやダイムラーなどドイツの完成車メーカーの開発は、ボッシュのドイツ本社、フォードやGM、テスラなどU.Sメーカーはボッシュ北米チームが受けるなど、ボッシュはグローバルで顧客に近い開発体制をとることが可能です。

ブレーキシステム開発、サイバーセキュリティ対策で重要度を増す日本の役割

ソフトウェア開発における日本の役割について聞かせてください

日本の完成車メーカーの技術は世界でも高く評価されていますから、それを支える私たちボッシュの技術力も世界をリードしているといって過言ではないと思います。

ドイツにあるプラットフォームについては、あくまでも決定権はドイツ本社にあります。しかし、日本のOEMからの受注が拡大したことで、日本の発言力も高くなってきました。実際にグローバルで見ても、日本のソフトウェアの開発部隊の人員は多いです。今後は、よりプラットフォーム開発の中心に携わっていきたいと考えています。

近年は日本の完成車メーカーからのソフトウェアの需要が伸びており、各メーカーからの要求も広く、かつ細かくなっています。車種ごとにブレーキ制御のスペックが違うため、要求も各社個別に対応しなくてはなりません。

また、自動車がネットワークにつながることで、サイバー攻撃の脅威にもさらされるようになりました。ネットワークを介してソフトウェア制御の部分がハッキングされては、自動車の安全性は担保できません。ブレーキ制御をする我々の製品に対してのサイバー攻撃は安全を脅かす脅威であり、またサイバーセキュリティは法規や最新技術に合わせたソフトウェア的な対応が必要なため、ソフトウェア開発チームが果たす役割は重要です。

完成車メーカーだけでなく、サプライヤーもまたその安全を守っている。特にソフトウェアの進化は早く、セキュリティ対策という課題もありますが、同時にとてもやりがいのある仕事です。

私は飽きっぽいところがあるのか、勤務先としてはボッシュが3社目。でも、ボッシュの仕事は全然飽きないです。AIを活用した自動運転という未来を創る仕事など、絶えず新しいミッションが与えられる。それに応じてソフトウェア開発にアジャイルなスタイルを取り入れるなど、開発手法も常に変わっていく。変化が激しいからこそ飽きないのです。

英語で海外拠点とコミュニケーション。異文化を知る楽しみも

今後の自動運転技術についても、ソフトウェアが果たす役割は重要になりますね。ブレーキシステム開発部門ではどんなビジョンを描いているのですか

まずは、自動運転の新しい技術コンセプトに対応していくこと。これは、仕事の面白さの一つになっています。一方で、各完成車メーカーがどういう方向に進んでいくかを見極めていく必要があります。そこでボッシュとしては、さまざまなポートフォリオを提示することによって、どのような方向に進んでも対応できる戦略を取っています。

また、サプライヤーという立ち位置ではなく、メーカーと連携しながら未来の自動車を創っていくために、デベロップメントとオペレーションをフレキシブルに、かつスピーディーに進めるDevOpsという観点が今後重要になってきます。

日本サイドで仕様を固めて、インドなどの各拠点で分担しながら開発を進める上でのプロダクトマネジメントはどのように進めていますか

一つのプロジェクトチームの中に、コンセプトに合わせて日本人やインド人など国籍は関係なく編成されています。

海外拠点のエンジニアとのコミュニケーションは、基本的に英語です。ただ、ソフトウェアの専門用語は基本的に世界共通ですので、覚えてしまえば苦はありません。それ以上に、各国のエンジニアはみなボッシュの仲間であり、高い技術力を持っているので、そこは安心できますね。

この2年間はコロナ禍もあって、オンラインでのコミュニケーションが主になりましたが、それ以前は、インド拠点のベンガルールにもよく出張していました。海外のメンバーと議論するのは楽しいです。同じボッシュの社員とはいえ、背景にある文化や視点が違いますから、その違いをお互いが楽しんでいます。

国内には数多くの優れたサプライヤーがありますが、技術的な違いは何でしょう

ボッシュはグループ全体で一つの顧客に密着し、そのソフトウェア開発を進めるというケースが多いです。例えば現在は、テスラとの開発で行っている先進的な取り組みがグローバル規模で蓄積され、そのエッセンスを各拠点がローカルな顧客に提案し、情報提供できる。それはグローバルで展開しているボッシュの強みの一つだと思います。

モビリティ社会の変化を見通し、ビジョンやアイデアを持つ

これからのVM事業部におけるソフトウェア人材に求めるものは何でしょうか

私たちのソフトウェアは基本的に組込みソフトなので、開発で使う標準言語はC、業務の自動化やデータ処理部分はPythonなどになります。これらの言語については、基本的な素養があったほうがもちろん望ましいと言えます。

ソフトウェアがどのような構成でできているのか、ソフトウェアアーキテクチャとはどういうものかなど、基本的な理解があればベターですね。

組込みソフトウェアの経験については必須ではありません。アプリケーション開発、Webシステム、または画像処理技術であれ、ソフトウェア開発は面白いと思っている方であれば、全ての人に門戸が開かれています。

車のソフトウェア制御はハードウェアや物理の知識が必要だからと敬遠する方もいるかもしれませんが、そのハードルはそれほど高くありません。ソフトウェアで車を動かす開発は楽しそうだと思ってくれる人であれば問題ないと考えています。

これからはモビリティそのものが変わっていく時代。自分なりのビジョンやアイデアを豊富に持っていて、それを試したいという方は、ボッシュで成長できると思いますね。

豊富なトレーニングシステムで、未経験エンジニアが成長する

最後に、ボッシュでソフトウェアエンジニアとして働くことの魅力を教えてください

ボッシュの製品はドライブを楽しむだけでなく、人々の安全を守るものでもあります。だから、私たちは安全への基準やソフトウェア品質に対して高い誇りや責任感を持っています。もちろん最初からそのマインドセットを持っているわけではなく、実際の業務や教育を通して自然に身につけていきます。

ボッシュの教育制度は会社が受講する研修だけでなく、自学自習するものもあります。学習する時間も十分持てるので、入社後に伸びる人材はたくさんいます。ボッシュはヨーロッパ発の企業ですから、日本と比べると非常に合理的な組織文化を持っています。トレーニングシステムも非常に体系立ったものが多いと感じています。

トレーニングのカリキュラムは多彩で、必ずしも自分の仕事に直結しなくても、興味をもった課目を自由に選択できるようになっています。私自身、一番自分のキャリアアップに役立ったのはリーダーシップトレーニングのカリキュラムでした。これを通してリーダー、マネージャーとしての考え方が学べたと思います。

こうした文化は教育だけでなく、仕事の選択という点でも言えること。自分の強みであるスキルを伸ばせる仕事はもちろん、チャレンジしたい仕事があればどんどん手を挙げて、それに就けるチャンスがたくさんあります。

多様な仕事があるので、自分を伸ばすチャンスが豊富にあることも、ボッシュ全体を通していえる文化だと思います。柔軟な吸収力と学ぼうとする力があれば、自動車業界での経験がなくとも、エンジニアとして活躍できる可能性が十分にあると言えるでしょう。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2022年9月26日公開)