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スマートフォンが自動車の鍵となる!デジタル化が進む次世代キーレスエントリー

スマートフォンをデジタルキーとして使うキーレスエントリーが進化しています。家族や友人とのカーシェアリングやリモート操作、デジタル盗難防止など、次世代キーレスエントリーが実現する利便性の高い機能や現状の課題、そして未来のキーレスエントリーはどのようになっていくのかを解説します。

スマート化するキーレスエントリーの進化

キーレスエントリーとは、物理的な鍵を使うことなく、自動車のドアの解錠・施錠ができるシステムです。1990年代半ばから普及し始め、2000年代にはボタン操作によるキーレスエントリーが一般的となり、現在は自動車に接近したりドアノブ等に触れたりするだけでドアの開錠・施錠ができるスマート化が進んでいます。シートやステアリング位置の自動調整やエンジンスタート、エアコンの温度設定、カーラジオの設定変更など、便利な機能が次々と搭載され、利便性が高まっています。

さらに今後は、スマートフォンのアプリ機能でキーレスエントリー操作を可能とするデジタルキーの開発・実装が進んでいます。自動車の鍵の管理や、紛失や盗難の際の面倒な作業も、デジタルキーをオンラインで操作するだけとなります。

また、デジタルキーの機能を使って手軽にカーシェアリングすることも可能となります。例えば、家族や友人が離れていてもデジタルキーのQRコードをシェアすることで、自動車を利用することができるようになる仕組みです。デジタルキーを受け取ったスマートフォンがあれば、シェアされた自動車に近づくだけでドアは自動開錠され、エンジンがかかる仕組みなどの実装も進められています。

スマートフォンによるキーレスエントリーの仕組みとテクノロジー

スマートフォンアプリによるキーレスエントリーは、まず自動車に搭載されているセンサーとデジタルキーの通信によって、操作するドライバーが自動車の保有者本人やデジタルキーを共有した人間であるか、もしくはまったくの第三者なのかを判別します。

ドライバーのスマートフォンからのBluetooth信号をセンサーが受け取り、それが本物であるかどうかの認証をコンピュータで行います。さらにスマートフォンから発信されるUWB(Ultra Wide Band)信号もセンサーが受信し、ドライバーとの距離を測定することで、ドアの開錠・施錠の判断を行います。

以前は近距離無線通信を活用していたため、ドライバーは運転席でエンジンをかける際にスマートフォンをポケットやバックから取り出す必要がありました。しかし、スマートフォンに備わっているUWBという超広帯域無線通信を使うことで、離れた位置からドアの施錠やエンジンスタートが可能となりました。

UWBは高精度な距離・位置測定ができるため、デジタルキーを持ったドライバーが一定の距離のエリアに入ることで自動車のドアを開錠することができます。

デジタル化が進むキーレスエントリー開発では、組み込み制御の技術に加え、通信技術やサーバー管理、アプリケーション開発に必要なソフトウェア技術が重要になってきました。盗難やサイバー攻撃を防ぐセキュリティ技術も不可欠です。また、自動車内のE/Eアーキテクチャやサーバーとの通信系統に使われる暗号化技術も必要となります。

キーレスエントリーにおけるサイバーセキュリティの課題

キーレスエントリーの課題として挙げられるのは、自動車の盗難を防ぐセキュリティ対策です。ひと昔前の車の盗難は窓ガラスを割って、鍵穴の部分を分解して中の配線を直結するという手口でした。電子化が進むにつれて、キーと自動車のIDが一致しない場合はエンジンがかからないようにする「イモビライザー」というシステムを導入することで、旧式の盗難件数は減っていきました。

しかし最近では盗難の手口も巧妙になってきています。日本でも「リレーアタック」というスマートキーが発する微弱な電波をキャッチして車のロックを解除する手口が広がっており、キーレスエントリーの開発においての課題とされています。

次世代のキーレスエントリーはサイバーアタックに対抗するために、スマートフォンと自動車との通信規格をBluetoothにすることで、その電波特性が適合した時にだけ開錠させるシステムに改善を行っています。さらに距離を測るためのUWB信号もスマートフォンから発信されているため、BluetoothとUWB信号の整合性を保つことでより強固なセキュリティに取り組んでいます。

さらに次世代キーレスエントリーでは、リレーアタック以外にも特殊な電子システムを使った盗難信号をブロックする暗号化システムの搭載も進んでいます。

自動車以外にも広く活用されるキーレスエントリーの未来

スマートフォンアプリによるデジタルキーが普及することで、例えばオンラインでデジタルキーを送るだけで社用車を共有することや、レンタカーを借りる際の面倒な手続きも簡略化でき、仕事の効率化が進むと考えられます。

広い駐車場に自動車を駐車した際も、スマートフォンのアプリケーションで自分の車の位置を探すことができるので駐車場を無駄に歩き回る必要もなくなります。このように、キーレスエントリーの進化は生活の質も上げることに貢献していくでしょう。

また、今後のデジタルキーは、スマートフォン以外のさまざまなデバイスでも利用できるように進化していくでしょう。例えば、スマートウォッチやタブレットなどでもアクセスできるようになるかもしれません。

さらに未来のキーレスエントリーは自動車だけではなく、デジタルキーの応用によって家のセキュリティや新たなビジネスを生み出し、安全安心な未来を提供してくれることが期待されます。

進化し続けるキーレスエントリーによる安全・快適の実現、強固なセキュリティと広い利便性を実現させる取り組みは続いていくでしょう。

【参考記事】

・Perfectly Keyless -Precise wireless localization and secure key management -

https://www.bosch-mobility-solutions.com/en/solutions/software-and-services/perfectly-keyless/

技術解説監修者

ヴィオーム・カミーユ

ヴィウォーム・カミーユは日本におけるビジネスユニット、「アドバンスト・ネットワーク・ソリューションズ」の責任者。
2005年から来日し、当初はサイバーセキュリティの分野で活躍。
2013年にボッシュ・グループに入社。2007年に博士号を取得。

アシュリー・キャニング

アシュリー・キャニングは、日本における「キーレスエントリー」ソリューションのプロジェクトチームのマネージャー。
ボッシュ・グループには20年以上在籍しており、日本のボッシュには8年間勤務。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2023年2月20日公開)