“走るソフトウエア化”する自動車とデジタルツインをつなぐ「車のIoT」
自動車の未来を変えるキーワード「IoTと自動運転」。自動車業界では、自動車のあらゆるデジタルデータをリアルタイムに取得・分析することで、安全と快適さを実現する未来の自動車づくりを目指しています。そこで活用される車のIoTはどのような技術か。未来のカーライフはどう進化していくのか。自動運転を実現するために必要な技術や課題とともに解説します。
車のIoTとは
そもそもIoT(Internet of Things)とは、インターネットを経由してモノと通信する技術を意味します。テレビやエアコンなどの家電機器においては、デバイスに搭載されたセンサーから取得した稼働データをインターネット経由でクラウドに蓄積し、ビッグデータとして今後の開発に役立てています。もしくはAIと通信を連携させて、遠隔操作や自動操作などを可能にする技術にも活用されています。
車のIoTは、まず自動車を構成する部品や装置に搭載されたセンサーデバイスから、あらゆるデータを取得してクラウドに集約します。運転中の路面データ、ワイパーの動きによる天気のデータや渋滞情報・速度・車間距離などの走行データなどは、安全で快適な運転を実現するための開発や改善に活用することができます。
車のIoT化で実現する安全・快適な機能
今後、交差点の信号機や道路に設置されたライブカメラと自動車が通信することで、右折時の横断歩道に人がいるかの警告や、信号の変わるタイミングを教えてくれるという機能も実現できるでしょう。
また、自動車同士のセンサーとカメラの情報を繋ぐことで、安全な車間距離をスムーズに維持する機能や、交差点などでの衝突回避や車線キープなどのシステムにも使うことができます。
例えば、冬に路面が凍結した時は、車体制御コントロールで補正するだけではなく、事前に凍結情報を取得して備えることも可能となります。先にその凍結した路面を通った自動車から得た情報をIoTシステムで事前に共有することで、そのあと通過する自動車は自動的に減速する、あるいは警告を出すことで事故を防ぐことも可能になります。
今後もそうしたドライバーの運転支援をアシストするADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)の開発において、IoTが活用されていくでしょう。
車のIoTの仕組みと構造
自動車のシステムは、エンジンなどの動力となるパワートレイン、曲がる・止まるをつかさどるモーション、インフォテイメント、ボディーという、大きく4つのドメインアーキテクチャで構成されており、各ドメインにはドメインコントローラと呼ばれるECU(Electronic Control Unit)が配置されています。
そのECUには、自動車を制御する膨大な数のソフトウェアが搭載されています。
将来的には、車両データや走行データ、自動車システムの稼働状況などのデータをクラウドに転送し、取得したデータをもとに仮想空間に仮想の自動車を走行させるデジタルツインを構築し、AIの機械学習モデルを使って分析することで、未来の自動車をつくるための研究開発や車載コンピュータのソフトウェア更新(OTA)に活用できるでしょう。
DevOps、アジャイル開発など、新たな開発モデルの導入
これまでの自動車開発は完成車を納品するところまででしたが、IoTを活用してデータ収集やソフトウェアによる制御が可能になったことから、量産後もDevelopment(開発)とOperation(運用)をつなげる新たな開発モデル「DevOps」が取り入れられるようになりました。
またDevOpsを実現するために、機能ごとに「要件定義・設計・開発・実装・テスト・運用」のサイクルを、短期間にトライアルアンドエラーで繰り返す「アジャイル開発」が進められています。
スマートフォンなどのアプリはまずリリースすることを優先とし、バグが見つかった場合は、素早くアップデートしています。
サイバーセキュリティ対策やソフトウェアのアップデートや修正にも迅速に対応すべく、こうしたソフトウェア開発の手法が導入されています。
自動車は絶対に安全であるべきだという固定概念から、絶対に欠陥など出してはいけないという実装を行ってきましたが、自動車のソフトウェア開発もこうしたアジャイル的な素早さを求められる時代になってきたのです。
また、各企業や部署によってソフトウェアやクラウドの技術選択が異なることで、開発効率が上がりにくいといった開発現場での課題もあります。未来の自動車をつくるためには、そうした他部署や他社とのの技術選択に関する調整ができる人、現場全体を見渡せる視点を持った人材が求められています。
IoT活用で自動車の未来はどう進化するのか
車のIoT化の先には、自動運転システムや多岐にわたる機能が期待されています。
例えば、現在の自動車の整備は定期的な点検が必要ですが、自動車の部品がすべてIoT化できれば、部品の異常をAIで点検したり、また部品交換のお知らせを受けたりという効率化が図れます。
また、安全運転に重要なブレーキもIoT化すれば、システムがブレーキの使用状況を把握することができるので、ブレーキ部品の適切な交換時期を所有者に伝えることもできます。ディーラー側も交換タイミングが事前にわかるので、交換部品をあらかじめ用意しておくことができます。これらは近い将来、実現されていくでしょう。
未来の自動車はこうしたIoT化により、ハンドルがなくても目的地に到着できる完全な自動運転に近づいています。新幹線や飛行機のように、移動時間は車内をオフィスのように使ったりもできるのです。さらに全ての自動車同士が繋がれば、非常に短い車間距離で自動車が連なって走行できるシステムなども登場するかもしれません。
※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2023年1月23日公開)