#Tech Note

ブレーキやステアリングの常識を変える
次世代の自動車を実現する「バイワイヤ技術」とは?

自動車の運転支援や自動運転の実現には欠かせないバイワイヤ技術。ワイヤ(電気信号)で制御できるようになることで、ハンドルやブレーキなどは今の形やレイアウトである必要はなくなります。バイワイヤ化で未来の自動車はどのような形態になっていくのか、運転支援や自動運転の実現にどう貢献するのかを解説していきます。

自動車のバイワイヤ技術とは

バイワイヤとは、機械的機構(メカニカル・リンク)で動かしていた経路をなくし、ワイヤ(電気信号)で伝達することを意味します。自動車においては運転支援技術とともに、アクセルやブレーキ、ステアリング操作などのバイワイヤ化が進んでいます。

すでに普及しているスロットル・バイワイヤに加え、近年ではシフト・バイワイヤやステア・バイワイヤなども、自動車に搭載されるようになってきました。

スロットル・バイワイヤ

アクセルのスロットル・バイワイヤは、今やほとんどの自動車に搭載されています。アクセルペダルからセンサーで踏み込み量を測定し、その電気信号をワイヤーハーネスでECU(Electronic Control Unit)に伝えてエンジンのスロットルバルブの開閉用モーターを制御しています。

シフト・バイワイヤ

変速シフトのシフト・バイワイヤもほとんどの一般車両に採用されていています。仕組みはシフトレバーに加わった力をセンサーで読み取り、ECUに伝えて変速機構のクラッチを外してから、どのシフトであるかを判断し、またクラッチを繋げるというものです。

このシフト・バイワイヤの技術は、1990年代のF1マシンで初めて導入されたものです。それまでのF1ドライバーは、コーナリングなどでクラッチを踏み、シフトチェンジをしながらハンドルを操作していたため、かなりの体力を必要としていました。

レース中盤の集中力や体力が落ちているときに、この過酷な変速操作をしなくてはならないので、事故に繋がる危険性もあったのです。しかし、このシフト・バイワイヤの登場でクラッチを切る時間の短縮や素早い変速操作ができるようになり、ドライビングの自由度が格段に上がったと言われています。

ブレーキ・バイワイヤ

従来の自動車には、多くの機械的機構(メカニカル・リンク)があります。例えばブレーキは、ドライバーがブレーキペダルを踏むことで、油圧機構に繋がってディスクブレーキを作動させています。また、ステアリングはハンドルを回転させることで、タイヤの方向を変えるステアリングラックまで機械的に伝達します。ハンドルの回転に応じた角度をモーターと減速機などで大きなトルクに変換してタイヤを制御します。

高速で回転しているタイヤを機械的な力で止めるには、ドライバーの踏み込んだブレーキの力をブースター機構で増幅させます。このブレーキペダルの踏み込み量をセンサーで測定し、作動量をECUが演算。その電気信号を伝えてブレーキを制御します。

ステア・バイワイヤ

ステアリングとタイヤの間を機械的に結合することなく、電気信号でタイヤを操舵。ハンドルを回す必要がなくなるため、自動運転を実現するために必要な技術です。

バイワイヤ化でハンドルやブレーキの形が進化する?

現状のブレーキペダルやハンドルの位置は、どの自動車も同じ場所にレイアウトされています。それはドライバーには見えない自動車の機構が、ほぼ全て同様につくられているからです。だから自動車の形もほとんど同じようなものになっているのです。

しかし、機械的機構のバイワイヤ化が進めば、ハンドルやブレーキの形や位置も変わってきます。機械での伝達を電気配線にするということは、ブレーキは足元になくてもかまいません。最近のハンドルについている操作ボタンがある場所に、ブレーキボタンを装備することも可能となり、足元のブレーキペダルを気にするストレスもなくなることでしょう。

では、ハンドルのステアリングをステア・バイワイヤ化するとどうなるのでしょうか。現状の丸いハンドルは、ドライバーが運転しやすいように設計されていることは事実です。しかし自動運転のレベルが上がっていけば、ゲームのコントローラーのようなものでもハンドリングができるかもしれません。スマートフォンでハンドル操作することが可能になる日もやって来る可能性があります。

バイワイヤ化のメリット

自動車のバイワイヤ化のメリットには、主に以下が挙げられます。

・操作性や安全性の向上
・低燃費、軽量化
・省スペース化を実現

ADAS(先進運転支援システム)においては、バイワイヤ技術によってドライバーの危険を自動車側が察知して回避するハンドリングや、駐車するときにハンドルの回転ギヤを上げるなど、アシストの精度を上げることができます。

バイワイヤ化によって将来的には機械的部品点数が減ることで、開発コストを削減できる可能性もあります。ギヤなどの重い金属部品を減らし、センサー、ワイヤーハーネス、モーターなどの汎用部品にすることで、自動車の軽量化にもつながります。軽量化することで燃費が良くなり、長距離の移動も可能になります。

車内の設計においても、機械的な機構がなくなることでスペースができ、収納や別の制御基板などを搭載できるようになります。完全な自動運転にシフトした場合、ハンドルやブレーキの形も変わり、いつか完全になくなる日もくるでしょう。バイワイヤ化で車の形が自由になる未来もそう遠くはないのかもしれません。

未来の車の形はどうなる?

自動車のハンドルやブレーキ、アクセルもなくなり、運転という作業が必要なくなれば、走るリビングルームのように映画を観て友人とすごしたり、仕事をしたりなど、夢のある移動空間を実現することも可能になるでしょう。

さらに無人の自動運転車が量産できる未来では、ハイヤーのように快適な運転技術で行きたい場所に送迎してくれることも考えられます。

バイワイヤ化に重要なのはソフトウェア技術の活用

ステアリングやブレーキのバイワイヤ化においては、ソフトウェアも重要です。
ブレーキ・バイワイヤの場合は、ブレーキ操作により影響を受ける車両の状態を最善にする制御を行います。ステア・バイワイヤでは、ドライバーのステアリング操作に影響を受ける車体を最善の状態にする制御が不可欠です。

滑りやすい路面などにおいては、ステアリングとブレーキを協調制御することが必要となります。カーブや路面の状況に応じて、曲がり不足や曲がり過ぎを回避してスムーズな運転に繋がる高度な制御にはソフトウェアが必要なのです。

また、IoT技術との併用でドライバーの運転データや走行データをクラウドに送る通信・インフラ技術や、それらのデータを分析・研究するデータサイエンス、AIの活用で駐車や配車などを自動で行うサービスを提供するソフトウェアの開発も進むと考えられます。

バイワイヤ化によって自動車の高機能化が進むことで、ハードとソフトの垣根はなくなり、よりソフトウェアの重要度は増していくでしょう。

※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2023年1月23日公開)