自動車の走行状態を安定化させ、快適さを実現する
ボッシュの「ビークルダイナミクスコントロール2.0」とは
自動運転システムが実装される未来の自動車では、乗っている人間が安全で快適であることが重要です。まるで「ハイヤーのベテラン運転手が運転している」ような安全な運転と、「走るリビングルーム」のように快適な乗り心地を実現するモーションコントロール技術。安心・安全・快適な自動車の走行状態を安定化させる技術と、ボッシュでの取り組みを紹介します。
自動車の走行状態を安定化させるモーションコントロール
自動車におけるモーションコントロールとは、路面状況や天候、走行中のドライバーの操作などを読み取り、自動車側が瞬時にステアリングやタイヤを制御して、スムーズでなめらかな走行を維持する概念と技術を指します。自動車の安全性や快適性をより高める制御であり、自動運転にも欠かせないコンセプトです。
近年、ボッシュが力を入れているのがドライバーの運転操作や速度に応じて、各アクチュエーターをコンピュータで統合制御し、車両の安定走行に貢献してくれる制御システムです。日本ではESC(Electronic Stability Control) と呼ばれることが多い横滑り防止装置の中核制御システム「ビークルダイナミクスコントロール2.0」です。
ボッシュの先進制御技術で実現する次世代ESC
ボッシュが開発する「ビークルダイナミクスコントロール2.0(Vehicle dynamics control 2.0)」は、ブレーキ、シャシー、ステアリング、パワートレインなどの各アクチュエーターを統合制御できるソフトウェアです。
※ A:シャシー、B:パワートレイン、C:ステアリングシステム、D:ブレーキシステム
従来のESCは横滑りを検知してから車両に介入し、安定性を回復させていましたが、ビークルダイナミクスコントロール2.0は、ビークルダイナミクスセンサーの情報をもとに車両の望ましい挙動を予測します。
そして横滑りの危険性が予測された場合は、先回りして車両に介入し、制御をかけて車両の動きをサポートします。これにより、日常だけでなく危機的な状況下の運転操作においても、ドライバーの安心感を高めます。ドライバーは、自分の意思に沿った自然なクルマの挙動を感じることができます。例えば、ロータリーを通過するような日常的なシーンでは、クルマのDNAに合致した運転体験を提供することができます。また、雪道や濡れた路面で起きる横滑りなどの危険な状況では、ドライバーが不安定さを感じる前に、その対策を講じることができます。急な回避操作やタイトなコーナーでの高速走行などでは、ビークルダイナミクスコントロール2.0 は、ドライバーがシステムの存在を意識しないほど目立たないよう機能し、常に最適なトラクションと安定性を維持することができます。
ビークルダイナミクスコントロール2.0は、コンパクトカー、プレミアムカー、小型商用車など幅広い車種と、そしてマニュアル運転から自動運転モードまで対応可能です。
ビークルダイナミクスコントロール 2.0の仕組み
ビークルダイナミクスコントロール 2.0は、加速度センサー、ステアリングセンサー、車輪の速度センサーという主に3つのセンサーを使って制御しています。
加速度センサーは曲がった時などに発生するG(重力加速度)がどれくらいかかっているかを検知するもの。Gは物体が動いた時、その物体の速度が速度時間あたりどれだけ速くなるかを示した量です。
ステアリングセンサーはドライバーがハンドルをどれだけ操舵(回転)させたか、車輪の速度センサーはタイヤの回転をセンサーで検知して回転数を検出し、リアルタイムで走行速度を算出することもできます。
制御の仕組みとしては、自動車の動きを検知するダイナミクスセンサー類のデータに基づき、正常に走行しているかを判断します。もし車体が滑っており、Gに異常があればブレーキングなども作動させ、車体を自動補正する仕組みです。
最近ではこの3つのセンサーによるフィードバック制御よりも、速く効率的なフィードフォワード制御の開発も進められています。フィードフォワード制御は、自動車がコーナーに差し掛かってハンドルを切った瞬間に、どんな状態になるのかを予測して自動車がGを制御しにいくものです。
このフィードフォワードは予測を元に車体を補正することで、フィードバック制御よりも速い処理を行い、よりスムーズにシステムが介入することを目指しています。
未来のモビリティを創るために、ソフトウェア開発を加速
こうしたモーションコントロール技術により、安全性や安定性、快適性、俊敏性がより向上していきます。例えば、ハイヤー運転手が運転するような安定した快適な乗り心地の自動車、指定した場所に送迎してくれるロボットタクシーやロボットバス、渋滞した道を避けて、目的への最適なルートをAIが選択してくれる機能などは、近い将来には当たり前に実装される社会となるでしょう。
また、移動する自由な空間、パソコンで仕事をしながらの移動や、映画を観ていても眠っていてもいいリビングルームのような自動車が登場する時代もそう遠くはありません。
※掲載記事の内容は、取材当時のものです。(2023年2月20日公開)