TOP

Power
Solutions
Division

パワーソリューション
事業部

OUR MISSION 私たちは一丸となって、
カーボンニュートラル社会を
目指します。

パワーソリューション事業部は、最新の内燃機関とeモビリティの両方を用いて、お客様のニーズに応え、大気環境の改善に取り組んでいます。
ボッシュはこれまでも、eモビリティに多大な投資をしてきました。そして、今日ボッシュの部品を搭載した多くの電動化車両がすでに世界各国で走っており、また多数のeモビリティの顧客プロジェクトを手がけています。

今後、都市部やインフラの整った乗用車の市場でモビリティが電動化していくかと問われれば、その通りでしょう。しかし、一般的な乗用車からトラック・バス、船舶に至るまで、私たちはあらゆるパワートレインのソリューションを提供しています。すべてのパワートレイン市場においては、今後長期に渡って内燃機関とモーターが共存し続けることも忘れていません。
そのため、私たちはeモビリティへのソリューションと同時に、高効率な内燃機関や排気ガス浄化システム、そしてパワートレインの最適化を図るコントロールシステム等の将来にも取り組んでいます。

※こちらの動画の情報は
撮影当時のものとなります

OUR STRENGTH 私たちの強み

  • 01.
    最大規模を誇る重要なセクション

    車の動きのすべてはパワートレインを介しているため、当事業部はとても重要な役割を果たしています。また外資系の自動車部品メーカーとしては珍しく、一部は、日本でプラットフォーム開発から製造まで行っています。

  • 02.
    お客様とともに作り上げる

    ご要望をお聞きしながら一緒にパワートレインの開発をしていく中で、トータルシステムとして最適なソリューションを提示し信頼を勝ち取っていきます。

  • 03.
    役職関係なく話せるカルチャー

    ボッシュ全体に言えることでもありますが、世代、国籍関係なく、意見が自由に飛び交う環境があります。これによってスピーディーかつクリエイティブな仕事が可能になります。

  • 04.
    進化し続ける労働環境

    在宅勤務制度などの充実をはじめ、オフィスでは席が固定でないフリーアドレスの導入、情報共有が効率的なチームボードミーティングなど、働く人が力を発揮しやすいように各種のデザインを強化しています。

OUR PRODUCTS &
SOLUTIONS
私たちの製品と
ソリューション

電動化自動車
環境にやさしく快適でパワフルな電動化を実現。

  • Vehicle Control Unit

    あらゆるパワートレインおよび車両機能の統合制御の要として機能するコントロールユニットです。無線を利用したファームウェア・ソフトウェアの書き換えやコネクテッド機能に対応でき、増大するバリアントや機能の複雑性の管理を容易にします。拡張性のあるハードウェアで未来の新たな機能に対応し、内燃機関に特化したコントロールユニットから、電動化・自動化・コネクテッドによって要求される多様な機能の統合制御ができます。

  • 48V battery

    コンパクトな設計・自然空冷でフレキシブルに搭載可能な48Vバッテリーです。高さわずか90mmで車載レイアウトが容易です。自然空冷の為、車室内の静粛性を実現しつつ、コスト最適化も実現できます。

  • eAxle

    モジュラードライブシステム-スケーラブルな製造コンセプトで乗用車から小型商用車まで対応可能です。高いシステム効率でより長いEV走行、またはバッテリーの小型化を可能にしつつ、モーター・インバータ・減速機を一体化させたことでコスト最適化とコンパクト設計を実現しました。

乗用車 (小型商用車を含む)
低燃費、低排出、ドライビングプレジャーを追求。

  • ガソリン直噴システム

    現在、ガソリン直噴エンジンではシステム圧力20MPa(約200気圧)が主流ですが、ボッシュの提案する高圧インジェクター・ポンプは35MPa(約350気圧)まで対応できます。ボッシュではこれらのコンポーネントを含むガソリン直噴システムを用いて、エンジン応答性の向上や燃費低減を実現するため、システムの最適化を行っています。

  • CVTプッシュベルト

    CVTの中心的なコンポーネントであるエンジンの駆動力を効率的に伝達するプッシュベルト。電子制御式により経済的な走りからスポーティーな走りまで、柔軟な設定ができます。

高圧噴射、高精度制御、高い耐久性の開発、
製品システム適合に向けた技術。

  • ディーゼル燃料噴射システム

    ディーゼル燃料噴射テクノロジーのパイオニアとして、ボッシュはさまざまな市場やアプリケーションに対応するコモンレールシステムを提供しています。2気筒から12気筒までのエンジンに対応し、噴射圧は、ピエゾインジェクタータイプで最大2700bar、ソレノイドインジェクタータイプで最大2500barまでの噴射が可能。アジア、欧州、米国の各市場に向けた、あらゆるニーズに最適なシステムが揃っています。

  • 排出ガス後処理システム

    窒素酸化物(NOx)と煤(PM)の排出量を低減するシステムの制御、センサー類、AdBlue®(NOxを95%以上低減できるSCRシステム専用の尿素水)を供給するシステムをボッシュは乗用車、商用車、産業機械向けに提供しています。

商用車・産業機械
高圧噴射、高精度制御、高い耐久性の開発、
製品システム適合に向けた技術。

  • ディーゼル燃料噴射システム

    ディーゼル燃料噴射テクノロジーのパイオニアとして、ボッシュはさまざまな市場やアプリケーションに対応するコモンレールシステムを提供しています。2気筒から12気筒までのエンジンに対応し、噴射圧は、ピエゾインジェクタータイプで最大2700bar、ソレノイドインジェクタータイプで最大2500barまでの噴射が可能。アジア、欧州、米国の各市場に向けた、あらゆるニーズに最適なシステムが揃っています。

  • 排出ガス後処理システム

    窒素酸化物(NOx)と煤(PM)の排出量を低減するシステムの制御、センサー類、AdBlue®(NOxを95%以上低減できるSCRシステム専用の尿素水)を供給するシステムをボッシュは乗用車、商用車、産業機械向けに提供しています。

MESSAGE 事業部から就活生へ
メッセージ

    求める人材像

    • ・論理的思考
    • ・行動力
    • ・交渉能力
    • ・コミュニケーション能力

    職種を問わず、スキルに自信がある方にぜひ、お越しいただきたいと思っています。

    こんな方にオススメな職場です

    • ・変化に強い人
      変化に対してフレキシブルに動けるだけでなく、当たり前だと思われる事象やプロセスを疑い、新しい見方ができ、挑戦できる人です。
    • ・粘り強い人
      当事業部では日本国内外問わず、さまざまな文化の方と一緒に働くことになります。日本からプロジェクトをリードする立場にもなるので、巻き込んだ人のモチベーションを離れた場所からどう保つかなどの課題が出てきます。難しい課題に対しても失敗を恐れず挑戦し、最後までやり抜く人が向いています。
    • ・向上心のある人
      自ら学習する意欲があり、現状で満足せずにさらに良くなるには何が必要かを考えられる、「改善」のマインドセットがある人です。

    入社後のスキルアップについて

    • ・職種にもよりますが、部署でのOJTに加え、国内の研修センターなどを利用してスキルアップを図っていただきます。
    • ・早期にリーダーシップポテンシャルを発揮している若手社員対象のキャリア育成プログラム(海外拠点など複数の部門を約1年半で経験)も準備しています。

STORY 私たちの働き方

  • いい緊張感の中で楽しんで仕事ができる環境

    ボッシュの良さは、自分のやりたいことを諦めなくてよいところだと思います。その中でも、パワーソリューション事業部は各個人に任されていて、自由に仕事ができる雰囲気です。自由には責任が伴いますが、いい意味での緊張感もありつつ、一人ひとりが楽しんで仕事ができる環境です。

PROJECT STORY プロジェクトストーリー

ハイスピードスピンドルを、世界標準技術に。
日本のものづくりの、真価を証明する挑戦。

山田 貴史 TAKAFUMI YAMADA
パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
1982年入社
柴﨑 淳平 JUNPEI SHIBASAKI
パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
2007年入社
杉田 真 MAKOTO SUGITA
パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
1992年入社

記事のみどころ

インジェクターノズル加工における生産性や形状精度を飛躍的に向上させた要素技術、ハイスピードスピンドル。その開発のすべてはボッシュジャパンの東松山工場が手がけており、現在、ドイツ本社をはじめ、世界中の拠点での導入が実施・検討されている。この物語は、そのような日本発の世界標準技術を生み出したエンジニアたちの挑戦の軌跡である。

Read More
  • 山田 貴史
    TAKAFUMI YAMADA

    パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
    1982年入社

  • 柴﨑 淳平
    JUNPEI SHIBASAKI

    パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
    2007年入社

  • 杉田 真
    MAKOTO SUGITA

    パワーソリューション事業部 製造部門生産技術
    1992年入社

コモンレールシステム登場による変革

1990年代初頭、日本のディーゼルエンジン市場は逆風にさらされていた。
ディーゼルエンジン搭載の大型車で特に古く、何らかの故障をかかえている車両は黒煙を撒き散らしながら走行しており、大気汚染の原因の1つとして問題視されていたのだ。
1995年から排ガス規制の基準値が一気に引き上げられ、その後の東京都で制定された条例がさらなる追い討ちをかけた。
東京都は国が定める以上の厳しい数値を設定し、それに満たないディーゼル車の都内の走行を禁止したのだ。

長年、ディーゼルシステムの生産設備機械設計に従事していた山田は、この規制には驚きを隠せなかったという。

「私たちは1985年頃からディーゼルシステムの高性能化のため、燃料噴射のキーであるインジェクターノズルの内面を研削するスピンドルの開発・評価を繰り返し、生産性と形状精度を高めるとともに法規に対応してきました。しかし、このときの排ガス規制に対応するには従来の技術の延長では難しく、ディーゼルエンジン自体が大きく変わる必要がありました」。
そこで登場したのが、ボッシュが世界に先駆けて開発した乗用車用コモンレールシステムである。
コモンレールシステムとはエンジン燃焼室内に燃料を吹き込む際、高圧ポンプを使用し燃料に2000バール(海底2万メートルと同じ圧力)の圧力をかけレール(パイプ)に蓄圧し、インジェクターから各シリンダーに最適な量と最適なタイミングで多段噴射する最新燃料噴射システムのこと。
これは燃料に使用する軽油は揮発性が低いため、圧力が高い状況で燃料が噴射されるとシリンダー内部で霧状に拡散されかつ、燃料が微細になるため燃焼効率が向上し、粒子化合物(PM)の発生を抑えることができるのだ。
ただコモンレールシステムでは燃料を高圧化するため、従来のインジェクターノズルは使用できなくなり、材料や工法を変更しなくてはならない。
特に大きな変更点は、それまでは熱処理前にドリルで開けていたノズルの噴射孔を、内面加工後に開けるようになったことだ。
「噴射孔を開ける工程がいちばん最後になり、ノズルの穴が開いていない状態で内面を研削しなければなりませんでした。ノズルの先からクーラント(切削油)を入れることができないため、私たちは切削油を出しながら加工する、オイルスルーの機能機構を盛り込んだスピンドルを開発しました」。
しかし、まだまだ改善の余地はあり、いかに内面の形状を正確に研削し、作成していくかというのが今後の課題として残っていた。

日本のモノ造りに対する自負

理論上、スピンドルの1分間の回転数を上げれば加工時間を短縮でき、形状精度も高められるはずだった。
しかし、はじめは何度トライしても回転数はなかなか上がらなかった。
また速いだけでなく低振動でスピンドルを回さなければならないため、回転精度の分野で高い技術を持つ日本のサプライヤーから高精度セラミックベアリングを採用するなど試行錯誤の日々が続いた。
「私たちメンバーの頭を悩ませたのは、回転数の安定性。瞬間的にはある程度の回転数が出せたのですが、製造工程を想定した長時間の連続運用テストをすると耐久性に問題が発生し、年単位で使い続けられるものではありませんでした」と杉田は当時を振り返る。
そのような状況が続いていたが、誰もあきらめようとしなかったのは、日本発のモノ造り技術を世界に広げたいという強い意志があったからだ。


「ボッシュの基本スタンスとして、たとえばラインに敷設する生産設備においてもドイツで開発したものを標準とし、ワールドワイドの各拠点に展開するという方式をとっています。ですが、工機・保全を担当する私たちは加工機をはじめ、組立機や評価装置をすべて自分たちでイチからつくり、製造ラインに入れてきました。現在、このような枠組みの中で自分たちの立ち位置を模索していますが、モノ造りに関しては日本がいちばんという自負があります。だからこそ、それをスピンドルで証明したかったのです」。

山田はまっすぐ前を見てそう語った。

柴﨑が入社した2007年、プロジェクトに1つの転機が訪れる。
日本にドイツ本社から社員が訪れ、試作品のスピンドルを見て絶賛。
ドイツに帰国した後、日本でつくられたスピンドルのことを報告してくれたのだ。
そしてその後、ドイツ側から回転数を少し抑えた実用的なものをつくってほしいという要望が入った。
日本発の世界標準技術の実現に、一歩近づいた出来事だった。それから実用化を目指して、1分間に数十万回転とオイルスルーを両立させたハイスピードスピンドルを開発。
2010年には、日本ですべてを開発・設計・製造したスピンドル搭載の加工機ができあがるほど、順調に評価と改善を繰り返していった。

この頃から柴﨑がメンバーに本加入し、プロジェクトはさらに前進していくのだが、ここに至るまでにはこんな逸話がある。
2008年の年明け、入社から1年が経とうとしていた柴﨑がちょうど機械づくりのプロセスから機械修理の実習が終わり、本格的に機械設計エンジニアとして歩きはじめようとしていた頃だった。
山田は定期面談の場で「将来、どのような仕事をしてみたい?」と柴﨑に問いかけた。
すると柴﨑は「機械としておもしろそうなのは加工機、特に内面研削盤の仕事に携わるエンジニアになりたいです」と答えたのだ。
その柴﨑の想いを汲み取った山田は「日本の内面研削技術をボッシュワールドワイドに展開したいから、柴﨑さん、背中にそれを背負って、まずはドイツに行商に行ってもらおうかな」と提案したところ、「ぜひ、やらせてください」と柴﨑は力強く返答したのだった。
工機保全を担当する山田のグループにとって、伝統的なプロジェクトを加速させる可能性を秘めたエンジニアのひよこが誕生した瞬間である。

日本発のスピンドル、ドイツに導入

2012年、ドイツ本社でついにスピンドルのコンペが実施された。
競合の中にはスピンドルの製作実績を豊富に持つメーカーが含まれていたが、日本発のスピンドルが無事採用されることになった。
その勝因は、製品だけではなく実際の評価データをあわせて提案したからだった。
山田は「工法開発や製造を担当する部署と密に連携していることはもちろん、自分たちでつくった製品を評価するフィールドがすぐ隣にあるということが私たちの何よりの強みです」と語る。

コンペ後は、実際にドイツの製造ラインにハイスピードスピンドルを導入し、3ヵ月24時間フル稼働で評価試験を行うことになった。

日本とドイツの加工機の仕様が違うため、スピンドルをドイツの加工機に搭載できるよう柴﨑が適合開発・設計を行った以外は、何事もなく評価は終了した。
そして晴れてドイツへ導入されることになった日本発のスピンドル。スピンドル制御装置の設計を担当した杉田はこう振り返る。
「みんなが一生懸命つくったスピンドルを最初に持っていくのは責任重大でした。でも日本でテストを繰り返し行い、絶対の自信を持っていたので、スピンドルそのものに対する心配はありませんでした」。
事実、杉田がインストールした1号機は約4年が経った今も、性能を維持したまま、24時間フル稼働で壊れずに活躍し続けている。

しかし、ハイスピードスピンドルの製造にはかなりの精度・工期を要するため、大量生産を試みようとすると品質にバラツキが出るという問題があった。
「グローバルスタンダードになったときに、QCDをいかに安定させられるかが私のタスクでした」と語るのは柴﨑。
「もともとトライアル品だったので、量産向けにルールを設けていませんでした。
また部署内には、スピンドルは生産が完了してもテストベンチで試験運転を行い、評価をクリアしてはじめて出荷されることから量産は厳しいのではという意見もあり、まずはチームの意思統一を図ることからはじめました」。
そのような柴﨑を山田と杉田がサポートし、現場の製造責任者や担当者に掛け合っては、日本発のハイスピードスピンドルを世界の標準技術にするという大きなビジョンを共有していった。
少しずつ、でも着実に、現場は1つになりはじめていた。

量産後のハプニングを超えて

もっとも想定外だったことがある。
量産段階に入ったにもかかわらず、ドイツで立て続けにハイスピードスピンドルが壊れたときだ。
さすがにこのときは、山田をはじめメンバー全員が青ざめたという。
「幸いだったのは、最初に杉田がインストールしたスピンドルは壊れずに動き続けていたこと。杉田本人によりインストールされたものは問題なく稼働しており、ドイツの担当者がインストールしたものだけが壊れていたのです。約4年間フル稼働しているという実例があったから、ドイツから壊れた旨の連絡は来ても、我々のスピンドルが悪いと言われたことはありませんでした」。
ただ、と柴﨑は続ける。

「フル稼働しなくてはならないスピンドルが止まってしまっていたので、ドイツ側の生産計画に狂いが出てしまっていました。
私たちは一刻も早く復旧させる必要があり、予備のスピンドルを送りながら、原因を調査し、対策案を導き出していきました」。
今回の件を踏まえて、マニュアル作成の話が今、進んでいると柴﨑は言う。
「スピンドルを導入する方法、取り回しの方法やクーラントサプライヤーの選定に至るまですべてを日本サイドで決めようと思っています。今は納入先としてドイツがメインになっていますが、近く、フランス、トルコ、ブラジルをはじめ、ワールドワイドに広がります。だからこそ、このスピンドルの扱い方のワールドワイドスタンダードを決めるために、現在週1回ドイツとやりとりをしています」。

今後も継続してスピンドルのクオリティーを安定させていくことがプロジェクトチームの当面の目標になっている。
しかし、日本の技術力の真価を世界中に証明する日は、きっとそう遠くはないはずだ。

※掲載社員の仕事内容・部署は
取材当時のものです

長年、量産化できなかった夢の技術
水噴射システムをゼロから開発せよ。

後藤 悠一郎 YUICHIRO GOTO
パワーソリューション事業部 開発
2007年入社

記事のみどころ

一般的なガソリンエンジンは、燃料の一部をエンジンの排気を冷却するために使用される。ボッシュでは、そうしたガソリンによる冷却を水で代替する「ウォーター インジェクション システム」を開発し、世界で初めて量産化に成功している。この技術は古くからモータースポーツなどの世界では使われていたが、量産化は難しいとされていた。この壁を困難の末に超えた1人のエンジニアがいる。

Read More

新たな流体の可能性を求めエンジン開発の世界へ

3歳からの3年間をロサンゼルス、8歳からの5年間をトロントで過ごした後藤にとって、日本にとどまる生活は窮屈以外の何物でもなかった。
大学では航空関連の流体力学を専攻、留学先にてマスターの資格を取得し、帰国後、同大学にてドクターを修了。
しかし、いざ進路を決める際に「飛行機よりも複雑な流体を突き詰めたい」という強い想いから、自動車のエンジンに関わる仕事を目指すようになる。
世界中に拠点を持ち、最先端の技術開発に触れることのできるボッシュを、後藤が選んだのは自然な流れだった。
入社後はガソリンエンジンに燃料を供給する低圧インジェクターの開発を担当。小田原の工場内にあるオフィスで、現場からの要望を受けて量産品の問題を解決する開発業務だった。

その後、直噴エンジンに使われる高圧インジェクター開発へ。製品がドイツで量産されるため、主な仕事は国内自動車メーカーの顧客からの技術相談を受け、エンジンにマッチングさせることだった。
「ドイツ本社で設計された仕様を日本向けに最適化して展開する仕事に加え、お客様からの要望を受けて噴射のパターン、形状といった流体シミュレーションを行う技術導入にも携わりました」。
ドイツ本社に依頼するより、日本で手がけるほうが格段に製品開発のスピードは上がる。
シミュレーション技術導入は、後藤の所属する部署の英断によるものだった。
低圧と高圧、2つのインジェクター開発に携わった後藤に転機が訪れるのは2012年のことだ。
すでに存在する製品をチューニングする開発業務から、世の中に存在しない未知の製品をゼロから先行開発する業務へ。
新たなミッションを受けて、後藤は日本を飛び出しドイツへと旅立った。

世界初の水噴射システムの量産化へ

ボッシュはエンジンを生産しているわけではない。
しかし、インジェクターをはじめエンジンに関わる数多くの部品を供給しており、それらの製品が顧客のエンジンでどのような挙動をするか、正確に把握できなければニーズに合致した製品開発はできない。
そうした業務を担うドイツの先行開発チームに後藤は配属された。
「燃焼システム、いわゆるエンジンの燃焼室内でどのような燃焼が起こっているかを把握したうえでの基礎開発です。インジェクターをエンジンに搭載して出た結果に基づき、いかに燃焼を効率化するかをお客様と一緒に考え、開発の視点からインジェクターを最適化したり、使用方法をアドバイスしたりするような仕事をしていました」。
ほどなくして欧州自動車メーカーの顧客から依頼を受けて、後藤はエンジンの燃焼室を水で冷却する「ウォーター インジェクション」の基礎開発に携わることになる。

この技術自体は目新しいものではない。
すでに自動車レースの世界ではエンジンのパワーを追求する技術として採用されていた。
たとえば、空気を圧縮してエンジンに混合気を供給するターボエンジンでは空気が高温になるほど膨張して吸気効率が下がる。
水の噴射で混合気を冷却して吸気効率を高め、エンジンのパワーを引き出すために開発された技術がウォーター インジェクションだ。
さらに燃焼室の冷却によりノッキングと呼ばれる異常燃焼が起きにくくなるため、もっともパワーが出るように点火タイミングを調整できるメリットも生まれる。
すぐれた技術ではあるものの、市販されるクルマに搭載する量産化には大きな問題があった。
つねに整備を行うレースカーとは異なり、一般的なクルマは何万キロも走ってから整備を行う。
このメンテナンスフリーの実現が困難だったことだ。
「冬場に水が凍ってしまうと膨張してコンポーネントが壊れます。また水を使うことで部品が錆びるリスクもあります。これらを解決することが量産化への課題で、これまで誰も挑戦しようとは考えていなかったのです」。
たとえ、それらの課題をクリアして量産化しても世の中に受け入れられない背景もあった。
そこまでして排気量あたりのエンジンパワーを最大化するニーズがなかったのだ。
風向きを変えたのは欧州で始まったダウンサイジングコンセプト、エンジンの排気量を下げて、パワーではなく効率重視のターボ過給を行うトレンドだった。
また欧州ではエミッション(排出ガス)規制も強化されており、ノッキングを防ぐことで排出ガスをクリーンにできる技術の需要は高まりつつあった。

常識を捨てて辿り着いたブレイクスルー

低燃費、低エミッションというトレンドを受けて、ボッシュのウォーター インジェクションの量産化プロジェクトは始動する。
すでにボッシュで量産化されている別用途の製品を応用すれば凍結、錆といった技術面の課題についても克服できる勝算はあった。
まだ誰も成しえていない新たな技術開発に、後藤の胸は躍った。
しかし、当然のことながら、そこには大きな「生みの苦しみ」が待ち受けていた。
「用途がまったく違うので、従来の製品で培ったノウハウがことごとく使えないのです。すべてゼロからノウハウを構築する必要がありました」。
お手本のない手探りの開発はトライアンドエラーの繰り返し。
無情に時間だけが流れていった。
開発開始から1年半を過ぎた頃、後藤の脳裏に漠然としたイメージが浮かぶ。

それは「従来の常識をすべて捨てること」によって辿り着いた答えだった。
「従来は空気の入口となるバルブ周辺にインジェクターを設置し、筒内を濡らさないように水平に噴射するのがセオリーでした。残念ながら詳しくお話しすることはできないのですが、そのセオリーをまったく無視した、従来にない新たなアイデアが閃いたことがブレイクスルーになりました」。
ここから開発は一気に進んでいく。
さらに後藤のプロジェクトより先行して進んでいた、別コンセプトのウォーター インジェクションが欧州自動車メーカーの車両に搭載された。
約800台の小さな量産化ではあったものの、これが後藤の挑戦にとって大きな追い風となる。

画期的な技術をシステムとして量産化する

ウォーター インジェクションを搭載した市販車の登場は、自動車業界に大きなインパクトを与えた。
開発当初から世界中の自動車メーカーに取り組みを紹介してきた後藤にとって、世界の自動車業界を動かした経験は大きな喜びになった。
現在、多くの自動車メーカーからの問い合わせを受け、後藤が手がけるインジェクターにポンプなどを組み込んだ「ウォーター インジェクション システム」は順調に量産化の準備が進んでいる。
「最初の量産化は数百台の規模でしたが、2019年にはボッシュのシステムが搭載された数万台、数十万台の市販車が街を走るようになるでしょう」。
そんな未来を描きながら、後藤はドイツを離れ日本へと戻ってきた。
2017年に帰国した後藤はエンジンシステムを統括する仕事に携わっている。

「燃焼室から一歩ズームアウトして、エンジン全体をとらえてシステム制御を最適化、効率化する取り組みを進めています。いま日本の自動車メーカーのお客様が注力しているのはリーン燃焼エンジンの開発です。熱力学的に理想的な燃焼であるリーン燃焼を実用化するには、排気ガス後処理など多くの課題を解決する必要があります」。
リーン燃焼を突き詰めていけば「化ける」という確信が後藤にはある。
次はリーン燃焼の実用化で世界の自動車業界を動かしたい。
そんな後藤の趣味はアウトドア、自然に身を置く時間を愛してやまない。
とくにロッククライミング、ボルダリングなど、壁をよじ登ることが好きだという。
手探りで新たな岩を探し、指先をかけて一気に身体を引き上げる。
未知の領域に挑戦し、より高みを目指していく。
これは仕事でもプライベートでも共通する、純粋な探究者としての後藤の欲求なのだ。

※掲載社員の仕事内容・部署は
取材当時のものです