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PROJECT STORY 04

北米向けの最高級車をターゲットに、
高い安全を担保する先進技術を積め。

2013年、ボッシュが満を持して世に送り出した電動ブレーキブースター「iBooster」は、すぐれた先進性・特性を持つ次世代技術のため、自動車メーカーのニーズに合致していれば次世代のクルマに搭載される確信が山田にはあった。しかし、クルマづくりで走破性に重きを置く国内自動車メーカーの場合、話は大きく変わってくる。これは次世代モデルへの実装に向け、ひとりの男が逆風を突き抜けた物語だ。

Members
PROJECT MEMBER
YAMADA YUTAKA
シャシーシステムコントロ―ル事業部 営業職種
ゼネラル・マネージャー
2000年入社

固定観念を捨て、自らの判断で決める

入社以来、ずっとボッシュの営業畑でキャリアを積んだ山田が、シャシーシステムコントロール事業部のゼネラル・マネージャーに就任したのは2014年のことだ。
担当する3社は、いずれも国内外で実績を持つ自動車メーカーだった。
前任者からは、そのうちの1社が最重点顧客であるという報告を受けた。
確かにそのメーカーのクルマは欧州での人気も高いことから、ドイツ本社の覚えもいい。
その流れはワールドワイドでの販売戦略の既定路線になっていたが、そこに山田は微妙な違和感を覚えていた。
思い込み、固定観念がチャンスを逃すことを長年の営業経験で知っていたからだ。そのようなとき、ボッシュから待望の新技術が登場する。
電動ブレーキブースター「iBooster」は、ハイブリッド車、電気自動車のブレーキシステムの中枢を担うコンポーネントだ。
クルマがドライバーの聴覚、視覚といった五感をセンサーやカメラで代替し、自律的に運転を補助する時代が進めば、より高いレベルで「きちんと状況を判断して止まる」というブレーキの安全性が求められるようになる。
そのような時代を先取りしたiBoosterは、ボッシュがワールドワイドで満を持して送り出した技術だ。
当時、山田はこの技術をどこにセールスすべきかを考えていた。
いったん固定観念は捨て、担当する3社をフラットに並べてみる。
「じっくり動向を観察してみると、かつてはクルマの“走り”を売りにしていたお客様が最近ではその走りに加えて“安全”に軸足を移しつつある兆候があったのです。多くの車種がNCAPと呼ばれる安全評価で最高評価の5つ星を獲得し続けている。この安全評価を毎年更新するためには現状維持では不可能で、より高いレベルの技術を採用して安全性を高めていく必要があります」。
しっかりと止まる最先端のブレーキシステムが売れると山田は直感した。

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ほぼ白紙からのセールス開始

山田が第一のセールス先として考えたのは先に挙げた最重点顧客ではなく、ボッシュとのコネクションの薄い別の自動車メーカーだった。
しかし、より高い安全性を提案できるという確信を持っていた山田は、ここに切り込んでいく。
「当然、そのお客様には取引のある別のサプライヤーがいます。そこよりも話す機会を増やすことが先決ですので、私自身はもちろん、すべてのレイヤーの窓口に対して腕利きの担当者をつけました。そしてお客様の社内全体の機運を徐々に高めていったのです」。
まずは新技術の説明から始める。
そこに興味を持ってもらえたら、次はクルマに採用する意義を丁寧に説いていく。
確実にNCAPが取れるブレーキ性能を発揮する技術であることに加え、さまざまな視点から有益な技術であることをアピールした。
「ただ、お客様の課題をまとめて解決できる反面、とにかく高価な技術なのです。その障壁をクリアするために、ときには心を鬼にして苦言を呈することもありました」。
ここまで山田が躍起になって売り込みを行った理由は、この技術が自動車メーカーとボッシュの双方に利益をもたらすという自信を持っていたからだ。
たとえ自動車メーカーからの要望でも無理であれば平然と断る。
つねに対等な立場で商談を進める山田に、初対面の担当者の多くは困惑する。
しかしグローバルな取引ではこれが標準であり、それを身をもって経験することで担当者の意識も変わっていく。
このマインドセットこそが、日本企業がグローバル競争に勝ち抜く条件のひとつだと山田は考える。
ともあれ、山田の熱意が心を動かし、自動車メーカー社内では北米向け次世代モデルへの実装ムードが高まっていった。

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本社の理解を得るチャレンジ

そうしたセールスと同時進行で、山田はドイツ本社の説得を開始する。
そもそも、セールス先はドイツ本社が把握している最重点顧客ではない。
しかも北米市場に注力しているため、欧州市場での認知度も高くないのだ。
いくらグローバルで広くセールスしたい技術であったとしても、ドイツ本社が難色を示すのも仕方のないことかもしれない。
「そこからドイツ本社を説得するのですが、私の就任時には最重点顧客のビジネスを伸ばせと言い渡されていました。しかし、実際に担当してもっともこの新技術のポテンシャルがあるとわかったのは別のお客様。従来のミッションの方向を変えることが、もうひとつのチャレンジでした」。
こうした各国・地域の担当者がドイツ本社にかけあうケースは、とくにボッシュでは珍しいことではない。
そこに商機があれば容認され、評価される企業風土なのだ。
「ただ、ドイツ本社を説得するのは大変です。まず“なぜ最重点顧客じゃないのか?”から始まって、“どれくらい実装の可能性があるか?”“将来性は?”など、いろいろなことを追求されます。事前にしっかり理論武装してやりあうのが面白い。しかしハードです。じつはドイツ本社の偉い人は怖いのです(笑)」。
本来、営業の仕事は自動車メーカーなどにモノを売ることだが、ボッシュの場合はやや事情が異なる。
これをジレンマととらえるか、チャレンジととらえるかで営業のモチベーションは変わる。
山田が大事にする座右の銘は「精神一到何事か成らざらん(Where there is a will, there is a way)」。
言うまでもなく後者である。
「ドイツ本社の説得が済んだら、あらゆる会議に顔を出してミッションの価値を営業と技術双方で協力し、熱弁していきます。そうするとだんだん社内全体の機運も高まってきて、いろいろな人が話に耳を傾けてくれるようになる。そしてドイツ本社とお客様のトップを会わせるところまでくれば、ほぼ大詰めです。あとはリソースをかけて実際に売る準備を進めていきました」。

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アドバンテージとなる先進技術を売る

こうして、北米仕様のフラッグシップモデルに山田が提案したブレーキシステムは採用された。
このプロジェクト受注で初年度は数十億円の売上、その後も新規受注などで右肩上がりの売上を達成している。
就任当時はほとんどビジネスが無かったことを考えると、まさに起死回生の受注と言えるだろう。
「ひとつ突破口ができれば、そこに紐づけていろいろな提案ができます。ドカンと売れても翌年は急落するパルスのような営業は絶対にやってはいけない。つねに新たな魅力を感じてもらうための種植えが必要です。これは私が担当するすべてのお客様に対して心がけていること。長期的な戦略を立て実行し続けることが大切になります。ブレーキシステムだけではなく、ボッシュにはさまざまな技術があるので他の事業部と連携すれば広がる可能性が大きすぎて、いまは正解が決められません。いろいろなチャレンジの方向は残されているのです」と語る山田は製品を売るのではなく、顧客の将来的なアドバンテージとなる先進技術を売るのだと言う。
2012年、日本に技術母体を持つ現在の事業部に移ったことで山田の価値観は大きく変わった。
「日本にいる技術者を営業に同行してお客様と技術論を交わすと、よくボッシュの技術は自分たちの少し先を走っていると驚かれます。そうした新しい技術を売ることに改めて誇りを感じています」。
余談ではあるが最近、山田はロードタイプの自転車に凝っていて、週に数回、20kmほど走ったあとの出社を日課にしている。
レースにでも出るのかと思いきや「競技には出ません。出たら絶対に勝ちたくなるから危険なのです」と笑う。
まさに生粋のチャレンジャーなのだ。

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